第493回:改めて一瞬の花火「Clubhouse」の周辺と背景、そして音声メディアの特性について考える
ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。今回は、久しぶりに名前を見かけた音声SNSの「Clubhouse(クラブハウス)」を手がかりに、当時の空気感と、音声メディアの特性を改めて整理してみます。
このPodcast/書き起こしで得られること(要点)
Clubhouseは、短期間で一気に広がり、そして驚くほど速く熱が冷めていきました。そこで「誰かが仕掛けたのでは」と言われがちですが、私の見立てでは、複数の要素が偶然うまく重なった結果として説明できる部分が大きいと思っています。
この回で持ち帰れるポイントは、次の3つです。
- Clubhouseが広がった背景は、陰謀めいた話よりも「構造」と「偶然」のほうが説明力があること
- 一瞬でしぼんだ理由は、機能の模倣だけでなく「聞く側にとっての不便さ」にもあったこと
- 音声メディアはニッチでありつつ、話したい人が多いという独特の性質があること
久しぶりにClubhouseの名前を見かけた
今回のきっかけは、Yahoo!ニュースでClubhouseに関する記事を見かけたことでした。クラブハウス自体、ブームから時間が経っているので「もう誰も覚えていないのでは」と思っていたのですが、コメントが100件以上ついていて、記憶に残ったまま方が想像以上に多いんだなと感じました。
そのコメントの中には「メディアが作ったブームなのでは」「何か仕掛けがあったのでは」といった考え方・方向性もありました。ただ、当時の状況を思い返すと、少なくとも日本での盛り上がり方は、そういう“仕掛け型”とは違う雰囲気だった、と私は見ています。
「仕掛けられたブーム」ではなかったと思う理由
もし本当に大規模に仕掛けるなら、ネット内だけで終わらせないはずです。タイアップを強く打ったり、テレビで大きく扱ったり、分かりやすい著名人を継続的に巻き込んだり、複数チャネルで押し切る動きをするはずです。
ところがClubhouseは、体感としてはネット内で話題が完結していました。もちろん個別に発信する方はいましたが、「全面的に押し上げる仕掛け」があったかというと、その感じは薄かったと思います。
なぜClubhouseは一気に流行ったのか
要素1:招待制が、初期の熱を上げやすい
まず大きいのは招待制です。招待制は「入りたい」「まだ入れない」という感情が生まれやすく、話題そのものがステータスになりやすい面があります。
さらに、招待で入った人は「せっかく入れたのだから、良い場所であってほしい」と感じやすいものです。その結果、初期は「面白いよ」「良いよ」という声が強くなり、評価が膨らみやすくなります。これは良し悪しというより、構造としてそうなりやすい、と捉えたほうが自然だと思います。
要素2:新しい場所に先回りしたい人たちが、熱を加速させる
新しいSNSや新しい機能が出ると、早く入り、早く立場を作りたい人が必ず出てきます。良い意味では情報発信が活発になり、悪い意味では「盛り上がりそのものが利益になる」動きも混ざります。
Clubhouseの周辺にも、いわゆる「これを教えます」「ここに乗り遅れるな」という空気を作る人たちは確かにいました。全員がそうではありませんが、結果として“盛り上げるほど得をする”層が熱を足しやすかった、という側面はあったと思います。
要素3:「音声SNS」という新しさと、当時の空気が噛み合った
そして、当時はコロナ禍の始まりからしばらく経った頃で、オンラインでの交流や情報収集の形が揺れている時期でした。そこへ「テキストでも動画でもない、音声のライブ空間」が来たことで、新鮮さが強く出たのだと思います。
補足として、いただいた情報では、Clubhouseは米国で2020年4月にリリースされ、日本では2021年1月下旬ごろから招待制で広がった、という流れのようです。時期としても、社会の空気と“新しい場”が噛み合いやすいタイミングだった、と考えると腑に落ちます。
なぜ「一瞬の花火」で終わったのか
差別化の余地が、思ったより小さかった
よく言われる分岐点として、X(旧Twitter)のSpacesの登場があります。ライブ音声の仕組み自体は、機能としては比較的シンプルなので、他社が追随するのは時間の問題だったと思います。
だからこそClubhouse側は、その間に「この場だからこそ続けたい」と思える体験に磨き込む必要がありました。ただ、そこで“置き換えられない強み”を十分に作れなかったことが、厳しかったのだろうと見ています。
聞く側にとって、気軽さが足りなかった
私が大きいと思っているのは、聞く側の心理です。多くの人は「聞くだけ」でいたいわけで、むしろ話を振られたくない。ところがClubhouseは、参加していることが見えやすく、場合によっては話を振られるかもしれない、という緊張がつきまといます。
これは、大学の講義のように“その場にいる”ことが前提になりやすい構造とも言えます。気軽に音声を楽しみたい人にとっては、少しストレスが強かったのだと思います。
音声メディアとしては、不便な点が多かった
音声を楽しむ人の多くは、自分の好きな時間に、好きな番組を、気軽に聞きたいはずです。ところがClubhouseは、基本がライブで、アーカイブ前提でもなく、毎週同じ時間に同じ番組があるわけでもありません。
もちろん、その場の雑談に参加して楽しむタイプの人にとっては居心地の良い場所だったと思います。ただ、全体として多い「聞きたいだけ」の人にとっては、音声メディアとしての利便性が高いとは言いにくかったのではないでしょうか。
音声メディアはニッチだが、やりたい人は多い
話したい人は多いのに、聞く人は限られやすい
私自身、このポッドキャストもまもなく500回に近づき、長く続けてきた中で感じることがあります。それは、音声メディアは全体としてニッチなのに、やりたい人はとても多い、ということです。
動画は撮影や編集、見た目の準備が必要になりますし、テキストは文章を書く力が求められます。その点、音声は比較的始めやすく、「話すのはできる」という人が一定数います。ここに供給が集まりやすい一方で、聞く側の時間は限られるので、需給のバランスが崩れやすいジャンルでもあります。
音声メディアの特性は「距離の近さ」にある
声は良くも悪くも、個性が出る
音声は、距離感が近いメディアです。動画は画面越しの距離があり、テキストはさらに距離が取れますが、声はその人の温度や癖がそのまま伝わります。良い面もありますし、粗が見えやすい面もあります。
だからこそ、音声は誰にでも同じように向くとは言いにくいです。「この人の声なら聞きたい」と思われる関係ができると強い一方で、そこに至る前に離脱されることもあります。
マーケティングの入口としては、合わないケースが多い
音声コンテンツをマーケティングの入口に置く方もいますが、私はあまり相性が良いとは思っていません。声は近いので、関係性がない段階で長く聞いてもらうハードルが上がりやすいからです。
属人的に「人で選ばれる」領域なら、音声はうまく働くことがあります。私の場合も、問い合わせのきっかけとして「ポッドキャストを聞いていた」「メルマガと合わせて聞いていた」という話をいただくことがあり、これは音声の距離の近さが良い方向に働いている例だと思います。
合わないなら、動画のほうが伝えやすい
一方で、多くの企業にとっては、音声より動画のほうが「知りたいこと」を伝えやすいと思っています。実際、動画を活用して成果につなげている例も見かけますし、視聴のされ方も比較的想像がつきます。
私としては本当は動画も出したいのですが、現実にはリソースの都合もあり、継続しやすい形として音声を続けています。だからこそ、音声を過大評価せず、向き不向きを踏まえたうえで選ぶのが良いと思います。
まとめ:Clubhouseは偶然の重なりで広がり、自然にしぼんだ
Clubhouseは、招待制と早期参入の熱、そして当時の空気と音声SNSの新しさが噛み合って、一気に広がったのだと思います。一方で、聞く側にとっての気軽さや利便性、そして他社の追随に対する差別化の難しさが重なり、自然に熱が冷めていった、というのが私の見立てです。
音声メディアは、今もニッチです。ただ、ニッチだからこそ合う場面もありますし、合う人には強く働きます。自分たちの目的と体制に合わせて、無理のない形を選ぶことが一番大切だと思います。
関連リンク
- Clubhouse 公式サイト | Clubhouse
- About X Spaces | X Help Center
- radiko(ラジコ)公式サイト | radiko
- Spotify for Creators | Spotify
- Apple Podcasts | Apple
よくある質問(FAQ)
Clubhouseは、なぜあそこまで一気に広がったのでしょうか?招待制が熱を生みやすかったことに加えて、新しい場所に先回りしたい人たちの動き、そして当時の空気と「音声SNS」という新しさが重なった結果だと見ています。特別な仕掛けがあったというより、複数の要素が噛み合った印象です。
Clubhouseが早くしぼんだのは、XのSpacesが出たからですか?それも一因だと思いますが、それだけではありません。聞く側にとって「気軽に聞くだけ」に徹しにくい構造や、ライブ中心で不便になりやすい点など、音声メディアとしての相性も影響したと感じています。
音声メディアがニッチと言われるのは、なぜでしょうか?話したい人は多い一方で、継続して聞く人の時間は限られるからです。動画やテキストと比べると市場規模としては大きくなりにくく、需給のバランスが崩れやすいジャンルだと感じます。
音声は、マーケティングの入口に向かないのでしょうか?ケースによりますが、私は合わない場合が多いと思っています。声は距離が近いので、関係性ができる前に長く聞いてもらうハードルが上がりやすいからです。人で選ばれる領域では強い一方で、一般的には慎重に考えたほうが良いと思います。
企業が音声を使うなら、どういう形が現実的ですか?音声が合うのは、継続して聞いてもらえる関係性が作れる場合です。そうでないなら、伝えたい内容を分かりやすく届けられる動画のほうが向くことも多いと感じます。目的と体制に合わせて、無理のない形を選ぶのが大切です。
配信スタンド
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