第600回:会社にAIを浸透させるには?人が力を注ぐ仕事から、任せる役割を考える
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ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。今回は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を会社へ入れるときに、「仕事を取られる」と受け止められる職場と、うまく一緒に働ける職場の違いについてお話しします。あくまで、私が中小企業の現場で感じていることです。普遍的な原則というより、自社で考えるきっかけとして読んでいただければと思います。
うちのお客さんは中小企業がほとんどで、Web担当者も兼務という方が多いんですね。私は、むしろ兼務の方がよいと考えています。現場を知り、実務が分かるからです。お客さんに価値を届ける現場に近い方が、Webを仕事に生かしやすいと思っています。
AI導入が「仕事を増やされる話」に聞こえていないか
AIと人間では、仕事の領域が重なります。これまで人がしていた仕事の一部をAIに任せるのですから、完全に別々の領域へ分けることはできません。
そこで、「人員削減をするのでは」「もう人を採らず、自分たちがAIを使って何倍も働くことになるのでは」という不安が出てきます。働く時間が何倍にならなくても、新しい道具を覚え、生産性を高めなければならない。自分たちに、さらに負荷をかけるための導入だと受け取られてしまうんですね。
そうなると、本当はAIに興味があっても、なんとなく使いづらい。すでに使っている人への風当たりが、なぜか強くなる。便利かどうか以前に、社内で使いにくい雰囲気ができてしまうことがあると感じています。
人が担当すると、お客さんに喜ばれる仕事を先に見つける
私はまず、「ここは人がやると、お客さんが喜ぶ」「対応やサービスの質が上がる」という仕事を見つけておくとよいと思っています。その仕事に集中してもらうために、それ以外をAIで省力化する。人に力を注いでほしい仕事から、AIを使う理由を考えるわけです。
もちろん、これですべて解決するとは思っていません。同じ仕事をコツコツ続けること自体がうれしい人もいます。ホラー映画やジェットコースターが好きな人も苦手な人もいるように、仕事の何に喜びを感じるかは、人によって違います。自分の好きな仕事を、AIが速くこなしてしまうのはつらいという方もいるでしょう。
その気持ちを簡単に解決できると言いたいわけではありません。今回は、組織としてどう話を進めるかに絞ります。経営側は人員削減やコスト削減からAIを語りがちですが、「人がここを丁寧に担うことで、会社の魅力を伸ばしたい」ところを先に確かめる方がよいのではないでしょうか。
理想論だけで決めず、現場に聞いて、「ここへ力を入れよう」と共有する。そのうえで、ほかの作業が減れば、ここでもっとできることがあるよね、と話すんです。現場が大切にしたい仕事と、会社が目指すことをつないでから、AIの話をすることです。
人を減らしたいより、辞めた人を補えないことが問題
中小企業は、新しく人を雇おうとしても、なかなか採れません。人を減らしたいというより、減らしたくないのに辞めてしまった。補充しようにも応募が来ない。賃金を上げても来ない。そうして仕事が回らなくなる。人員の不安定さに困っている会社が多いと感じます。
編集注:「2025年度の人手不足倒産、確か4,500件」という説明は、確認した一次資料の件数とは一致しません。負債1,000万円以上の倒産を対象とした2025年度の調査では、帝国データバンクが441件、東京商工リサーチが442件と公表しています。調査ごとの集計値として区別し、4,500件を確定値にはしていません。
参照:帝国データバンク:人手不足倒産の動向調査(2025年度)、東京商工リサーチ:2025年度の「人手不足」倒産
人を増やすのが難しいなら、AIに任せられる仕事を任せることで、その不安定さを減らす。経営者にとっても、安定して任せられる部分が増えれば安心でしょう。今いる人が、会社として大切にしたい仕事を続けるために使うという説明になります。
「会社としてもっとやりたいことがあるので、ここにAIを使いたい。最初は慣れないし、気持ち悪く感じるかもしれない。でも、お客さんから気持ちよく感謝してもらえる仕事へ、みんなで集中したい」。同じ導入でも、伝え方によって受け止められ方はかなり変わると感じています。
経営者が見ている結果だけでなく、そこまでの話を伝える
特に最初の導入時の説明は、印象に残ります。そこで「人間の仕事は、みんなAIに奪われる」といった過激な話を持ち込めば、不安になりますよ。自分が生きていくための糧がなくなるかもしれないわけですから。その不安を理解したうえで、AIも含めて協力する雰囲気を作りたいですね。
経営者は先を見ているので、先々の結果だけを話しがちです。現場からすると、「いきなり何の話をしているんだ」「自分たちはもういらないのか」となってしまう。なぜその仕事を大切にしたいのか、なぜほかの作業をAIへ任せるのか。結論へ至るまでの考えも、きちんと伝える必要があります。
現場には、その人のおかげで会社が回っている、という強い人がいます。最初から「コストダウンします」「これ以上人は採りません」と持っていくと、なかなか浸透しません。現場の人が担っている役割を認め、一緒に働きやすい会社を作る話にすることが大切だと思います。
お客さんとのやり取りから、人に残す判断を考える
人が担当すると喜ばれる仕事は、会社やお客さんの年齢層によって違います。初回相談をフォームだけにせず、人が受けた方がよい場合もあるでしょう。定型的な確認はAIへ任せても、「ここはもう少し踏み込んで聞こう」という判断は人の方がよいこともあります。自社のお客さんとの接し方から、役割を考える必要があります。
AIは、やりすぎることもあるんですよ。レポートがどっさり出てきたり、できるだけのことを全部やったりする。一方、人なら「ここまででよい」と判断できます。どこまで考え、どこで止めるかを適切に決められる人が担った方がよい仕事もあるわけです。
情報整理はAIができても、提案そのものは、お客さんの雰囲気やこれまでの経緯を知る担当者の方が、まだ適切に判断できる場合が多いと思います。例えば、声色から「ここに不安があるのかな」と感じ取ることです。お客さんとの間で積み重ねた理解が、提案の質につながることがあります。
いずれは、グループウェアなどが過去のやり取りや会議の音声、動画から、その雰囲気まで読み取れるようになるとは思います。大企業なら蓄積したデータも多いでしょう。ただ、現状ではその精度はまだ微妙だと私は感じています。将来できそうなことと、今、人へ任せた方がよいことは分けて考えたいですね。
時間が空けば、新しいことを考えられるのか
AIで時間が空くなら、一人ひとりが新しいことを考える時間にもできます。ただ、DeNAの南場さんのお話では、個人の作業が速くなっても、業務の進め方や組織が変わらず、新しいことへ移れなかったという問題がありました。時間を作るだけで、新しい仕事へ自然に移るわけではないので、難しい部分もあります。
参照:DeNA:南場智子「先に動かし、事業を広げる」講演書き起こし
それでも、余裕ができて、そこから何かできるのはよいことです。人が担当すると喜ばれる仕事を出し、ほかは「AI君にやってもらおうか」と考える。自分たちが大切な仕事をするために使うなら、堂々とAIを使いやすいのではないかと思います。
AIに任せても評価が下がらないよう、運用を整える
こうした考え方を共有するだけでなく、評価制度も関わります。AIに任せたことで、その人の評価が下がるのでは困りますよね。何を本人の貢献として評価するのかも、導入と一緒に考える必要があります。
また、AIを入れれば、今度はAIを管理する仕事が増えます。その仕事をする人や時間は確保しなければなりません。自分たちで考えるのが難しければ、導入を支援する会社へ相談した方がよい場合もあるでしょう。AIに任せた後の管理まで、誰かの仕事として決めておくことです。
具体的には、次のようなことを考えます。他社の例をそのまま使うのではなく、自社の現場に合わせたルールが必要だと感じています。
- AIが作った内容を、誰が確認するのか。
- どこまでの自動実行を認めるのか。
- お客さんへの対応を、どこから人が引き継ぐのか。
- どこまでの情報をAIに読ませるのか。
データの持ち方も会社によって違います。「こうすればよい」と言われても、そのまま合わないことがある。何かの例をたたき台にして、自分たちのルールを作る仕事は残ります。現場に合う形へ調整することまで、導入の一部だと考えてください。
AIのおかげで、会社にとって価値のあることへ集中できる。「ありがとう、AI君」と思えるような雰囲気を作れるかどうかは、組織を管理する方にとって大きな仕事です。人と人の距離が近い中小企業では、特に影響すると思います。ただ、全部を一気に変えようとすると、多分失敗します。まず2、3個の小さな仕事から始めるのがよいのではないでしょうか。
経営者自身も、要約や翻訳の先まで触ってみる
大前提として、経営者や執行役員など、上の方にもAIを理解していただきたいと思います。スマートフォンでChatGPTを少し使う、Geminiで翻訳や要約だけをする、というところから一歩進む。仕事を任せる道具として、早めに自分で触ってみることです。
例えばCodexやClaude Codeのようなものですね。触ってみるだけでも肌感覚が変わり、現場からの提案への返答も変わると思います。残念ながら、上の方が使ったことがなく、「言っても伝わらない」と現場が感じて、進まないケースも聞きます。現場の提案を理解するためにも、経営者自身の経験が必要なんです。
Webサイトでも、昔はそうでした。「本当に意味があるの」「これでお客さんが来るの」「そこにお金は使えない」と反対され、進まなかった例がたくさんあります。今では当たり前の存在で、むしろ強化しなければならない。同じようなことが、今のAIでも起きていると私は思います。触ったことがないまま、価値を判断しないでほしいですね。
従業員の方が「実は使っています」というケースも多いと感じます。ただ、人生相談、要約、議事録など、用途ごとに使うだけで終わっている場合もある。もう少し、会社の仕事全体をどう変えられるかと考える人が増えれば、中小企業にも活用できる余地はたくさんあります。
大企業向けには、会社全体の情報を使って意思決定を助けるようなAIの使い方があります。Microsoft Copilotなどで行われる方向ですね。中小企業でそこまで持っていくのは、現状では難しいと思います。私も、規模を小さくして使えるものを構想していますが、まだ難しい部分があります。できあがった仕組みがある、という話ではありません。
まずは、人とAIが一緒に仕事をしやすい会社になるきっかけにしていただければと思います。うちはAI専門の会社ではありませんが、Webコンサルティングの中で、AIを使ったツールを作ったり、使い方を一緒に考えたりしています。現場の仕事と合わせて、AIの活用をお手伝いしています。
自社の業務も、できるだけAIで効率化していますし、家の家計も、ほぼAIへ任せるような使い方をしています。WebだけでなくAIも使ってみたいという方は、ご相談いただければと思います。人手不足の中で、人が力を注ぐ仕事を考え直す。そのためのAI活用として、進めていただきたいですね。
まとめ:人が力を注ぐ仕事を決めてから、AIへ任せる
- これは中小企業の現場を見てきた私の実感であり、すべての職場に当てはまる原則ではない。
- 人員削減や新しい負荷の話として受け取られないよう、人が担当すると喜ばれる仕事を、現場と確かめる。
- 経営者が見ている結果だけでなく、なぜその仕事へ集中し、ほかをAIへ任せるのかを伝える。
- AIに任せても評価が下がらないようにし、確認担当、自動実行、人への引き継ぎ、情報の範囲を自社で決める。
- まず2、3個の小さな仕事から始め、経営者自身も仕事を任せる使い方に触れる。
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