第551回:「自分語り」で終わらせない。Webで伝わるストーリー活用の現実的な方法
ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。
今回は、ストーリーテリング、物語性を付けることでWebコンテンツを改善するという話です。ただ、ストーリーは決して魔法の杖ではありません。中小企業・小規模事業者の方々が、どういうところで使えばいいのか。難しい物語作りに取り組む前に考えてほしいことをお伝えします。
「ストーリーテリング」が何を指しているか確かめる
最初にお伝えしたいのは、情報を発信している方が、ストーリーテリングという言葉で何をイメージしているのかを確かめた方がいいということです。結構、人によって違うんですよ。
シンプルに「文章の中で、ちょっと背景情報を入れましょうね」という温度感のものもあれば、TEDのように壇上で堂々と語ることをイメージしている人もいます。これでは全然違う話になります。
特に海外の情報には、身ぶり手ぶりや映像を使ってストーリーを語る、劇場型の伝え方を前提にして、それをWebへ落とし込んでいるものもあります。これはものすごく難しいですし、日本にはまるのかという話もあるので、私は基本的には避けた方がいいと考えています。
その人が勧めているストーリーの使い方が、自分たちにとって身近なものなのか。まず、そこをチェックしておいた方がいいですね。
スペックを知りたい人に、開発物語は必要か
では、伝えたいメッセージすべてにストーリーを乗せると効果的なのか。これについても注意が必要です。物語性がはまるコンテンツと、そうではないコンテンツがあります。
極端な例ですが、パソコンのスペックを調べるときに、「なぜこの構成になったのか」「このチップがこういう作りになったのは、こんな競争の背景があったからだ」と、そこまで知りたいでしょうか。
今、比較検討しているなら、コストパフォーマンスはどうなのか、レビューはどうなのか、ほかと何が違うのか、どういう分野に強いのかが気になるわけです。そこに物語性を求めているわけではありません。スペックを比較するという切り口なら、ストーリーを入れるのは相当難しいですし、多分、需要もないと思います。
でも、同じメーカーの会社案内や採用情報ならどうでしょう。チップの製造については私も詳しくないので、あくまで例え話ですが、なぜこういうものを作ろうと思ったのか、何を目指しているのかという話は、働こうとしている人には気になりますよね。
自分が入ったらどんなプロジェクトに関われるのか、世界にどんな影響を与える仕事の一部になれるのか。協力会社や、付き合う企業を評価しようとしている人にとっても、そうした背景には興味を持ってもらえるわけです。
はまらないコンテンツでは、どれだけうまくストーリーを語っても、大して意味がない。はまるところについてはやる価値がある、ということです。
図版や表組み、順序立てたアニメーションなどは、情報をかみ砕く手間を減らしてくれるので、いろいろなコンテンツで使えます。かみ砕くのが大変なこと自体に価値があるのは、難解な小説や文芸などでしょう。ビジネスの情報では、図版やインフォグラフィックは比較的広く使えますが、ストーリーは同じようには考えない方がいいですね。
現在・過去・未来を知りたい内容かで考える
私がいつもお客さんにお伝えしているのは、その内容の「現在・過去・未来」を知りたいというニーズがあるかどうかで考えてみてください、ということです。
さっきのチップの性能なら、過去にどうバージョンアップしてきたかは、それに興味がある人には面白いでしょう。でも、今、比較検討している人にとっては、あまり関係がありません。チップでなくても、例えば塗料でも同じことが言えます。
サービスについても、今何をしてくれるかを知りたいときに、過去の話は必ずしも必要ではない。継続して使うサービスなら未来は気になるかもしれませんが、現時点で稟議書に載せる情報とは、また違いますよね。
その会社に信頼を持ってもらうためのコンテンツや採用情報、今後のロードマップを説明する内容なら、現在・過去・未来が関わってきます。
会社ではなく、サービスを受けた人が主語になる場合もあります。事例、お客様の声、サクセスストーリーと呼ばれるものですね。ビフォーとアフターが気になる内容には、ストーリーがはまります。
単にアンケートを載せたり、「これを入れて、こうなりました」という結果だけを並べたりするのではなく、もともとどんな課題を抱え、どう困っていたのか。どんなきっかけでその企業やサービスと出会い、今はどうなっているのか。そして、これから何をしていきたいのか。
こういう物語性があると、読む人が自分に重ね合わせることで、響くコンテンツに変わっていくわけです。主語は会社でもお客さんでもいい。現在・過去・未来が関係しているなら、ストーリーを導入する余地があると考えてみてください。
自分語りになると、知りたい情報へたどり着けない
ただ、最初の話に戻りますが、ストーリーを語るのはものすごく難易度が高いです。自分たちでやろうとして、失敗してしまうことも多いと思います。
失敗するとどうなるかというと、なぜか自分語りをしているホームページになってしまう。特にトップページにありがちです。
こちらはまだ何も聞いていなくて、「あなたたちはどんなサービスをやっているの」「何が違うの」ということを知りたいだけなのに、「我々はこういうふうにやってきて、今はこのキャッチコピーでやっております」と、とうとうと語られる。
皆さんも、見たことがあるのではないでしょうか。そういうサイトに出会うと、「その話はまだいいな。今の段階ではないぞ」と、読むのをやめるか、別のページへ行くか、そこを去ってしまうと思うんですよね。
ストーリーを使う場所は考える必要がありますし、使わない方がいいところもたくさんあります。現在・過去・未来に需要があれば、はまる可能性はあります。ただし、簡単にできるわけではない。その前提で、外部のサービスを使うか、自分たちでやるかを考えた方がいいです。
難しさのイメージとして、ダイレクトマーケティングを長くやってきた方は、ニュースレター、いわゆるDMを思い出していただくといいと思います。物語や思いを書いた手紙を送って、商品を売るやり方です。
私がダイレクトマーケティングに触れた20年ちょっと前には、そういう売り方の話や本がたくさんありました。高額なものがたくさん売れたという話もあり、昔のダイレクトマーケティングでは、割と王道のやり方だったんですよ。
あれ、難しいじゃないですか。できる人は本当に限られていて、当時それができた方には、今でも知っている人は知っているという立場の方が多い。そのくらいの難しさをイメージしてもらえるといいと思います。
物語作りより、言葉では伝わらない良さを見せる
では、難しいから避ければいいのかというと、使えるようになった方がいい。ただ、「ストーリーテリングをやりましょう」と正面から取り組むと、いろいろなスキルが必要になって難しいんです。
少し話を戻すと、なぜストーリーが効果的なのか。スペックには表れない情報や、感情に問いかけるようなことを伝えやすいからですよね。映画や舞台、ドキュメンタリーには、そういうところがあります。
それから、覚えやすい。私は特別に記憶力がいいわけではありませんが、たくさんのものを覚える人が、物語を作りながら覚えていくという話がありますよね。歴史も漫画から入った方が覚えやすいというのは、あると思います。
私も源氏物語を覚えるときには、漫画を読みました。あれはあれで、顔が似ていて誰が誰だか分からないという、古典の分かりづらさを引き継いでいるようなところもありましたが、でも分かりやすかった。そういう魅力はあるんです。
ただ、目的が感情に訴えたり、言葉では伝えづらいものを分かりやすく伝えたりすることなら、わざわざ難しい物語を作らなくてもいい。にじみ出るサービスや商品の良さを、どうやって伝えたらいいかという観点で、コンテンツを考えてもらった方がいいと思います。
まず、もともとの商品を磨く。その上で「これ、文字や写真だけではなかなか伝わらないよね。どうしたら伝えきれない部分が伝わるかな」と考えていくと、ストーリーでやろうとしていることと似た効果が生まれます。実現したいことが、ほかの手段でできないかを考えるわけです。
大前提として、いいサービスをしていなければ、ばれてしまいます。まず、いいサービス、いい商品にするということがあります。
例えば、人が関わる商売なら、うちのお客さんにも多い塗装店さん。「親切丁寧に、なるべく不快にならないように施工します」と言っても、それだけでは信じてもらえません。
でも、実際の朝の様子を動画で撮りながら、「こういうふうにやっています」と説明して、ご挨拶しているところを見せる。昨日の作業後がきちんと片付いていて、地面にごみがないことも、動画を回していれば伝わっていきます。
動画一本でも、言葉では伝えきれないものをたくさん撮れるわけです。動画でなくても、自分で言うのではなく、同じ状況のお客さんに語ってもらう方法もあります。文字では伝えきれない部分を、端的に伝えていこう。そこを考えてもらえればいいんです。
「ストーリーをやる時代だ」と大上段に構えない
少し話があちこちへ行きましたが、大事なのはストーリーによって得られる効果です。それなら、別の手段で実現した方が早いのではないか、ということですね。
自分たちの伝えたいことをきちんと伝えるには、どうしたらいいか。そのための見せ方や、使うコンテンツの種類を考える。「ストーリーテリングをやるんだ、そういう時代なんだ」と大上段に構えると、慣れていない人は多分、失敗すると思います。
文章はなかなか読んでもらえないし、長いから短くしてくれと言われる。かといって短くしすぎると、説明が足りないと言われる。難しいですよね。知りたいことも、知りたい順番も、人によって違います。
本当は一人ひとりに合わせたいのに、Webでは同じ内容を皆さんに見せることになる。その中で、どうしたらもっと伝えられるかを突き詰めていく。そうすれば、わざわざストーリーテリングを意識しなくても、「ここはストーリーがいるよね。現在・過去・未来がいるよね」と感じられるようになるのではないかなと思います。
AIの伝え方が変わっても、サービスを磨くことは残ると思う
ここからは、この記事を公開した2025年2月時点で考えていたことです。付け加えると、ストーリーの話題では「人間にしか作れない、AIには作れない」と言われることがあります。ただ、私はこれはポジショントークだと思っています。
人間の感情を持っていないから、人間が考えるような物語を作れなさそうには見えます。でも、昔話を作ってと頼むと、ChatGPTは作ってくれる。感情を再現できていないからといって、表に出てくるストーリーも作れない、というわけではないと思うんですね。
いずれは、質問に対してスペックを説明するようにかっちり答えるのか、ストーリーのように柔らかく語るのか、動画や画像を出すのかも、AIが適したものを選んでいくのではないかと考えています。
状況によって知りたい情報や順番は変わりますが、そこはAIによる検索が得意にしていくところだと思います。固定されたコンテンツに頼る伝え方より、一人ひとりに合わせられるようになる。そうなると、私たちは伝え方を考えなくてよくなるのかもしれません。
そのときにも残るのは、そもそものサービスや商品、働いている人や会社自体を磨いていくことなのだろうと思います。あとは、それをAIや言語モデルにきちんとくみ取ってもらえるように伝えることです。
Webサイトも、企業の情報を集めたデータベースのようなものになっていくのではないでしょうか。必要な情報、不要な情報を判断して、正しい情報が世の中に伝わるように管理する。そう考えると、どんなコンテンツの形がいいかを議論していること自体、いずれ「そんな時代もあったね」となるのかもしれません。
見せ方は大事ですし、ホームページを改善して大きく変わる部分はまだあります。ただ、ゼロクリックサーチが進むと、ホームページの見せ方の重要度は変わってくるのかな、という気はしています。
これは少し雑談ですが、私も過去の自分の情報を読み込ませたチャットボットを作っています。私一人でやっているので、結構一貫した回答が返ってきて、「これがあったら、これはこれで結構良くないか」と思ってしまうこともあります。
でも、どう売っていくのか。それでお客さんは満足するのか。そこは悩ましいですね。特に情報を扱う商売では、商品の構成や売り方、見せ方がかなり変わっていくのではないかと思います。
なくなる仕事も、新しく生まれる仕事もあるでしょう。面白いものと面白いものを組み合わせて、いい結果を出せるものを作る。そういう仕事には未来がありそうで、うちもできたらいいなと思っています。
ストーリーの話から少し離れましたが、まずはその言葉をあまり気にしすぎなくていい、ということです。新しい手法の話に触れたときは、一度冷静になって、自分たちが何をどう伝えたいのかを考えていただければと思います。
関連コンテンツ
商品やサービスの過去から現在への変化を、選ぶ理由として伝える考え方は、Podcast 第192回:商品やサービスの経緯を伝え、納得できる理由を届けるでも扱っています。
ストーリーにするかどうかを含め、目的と相手からコンテンツを考えるときは、コンテンツ作成・活用入門の目的と相手の決め方も参考にしてください。
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