第559回:AI時代のWeb担当者へ。「職種で自分を縛る」ことをやめよう
ラウンドナップWebコンサルティングの中山陽平です。今回は、Webやデジタルの仕事で、これからどんなスキルを身につけていけばいいかというお話です。会社に対して価値を提供する場合も、自分で仕事を取っていく場合も、最初から「自分はデザイナーになる」「コンサルタントになる」と職種で自分を規定して学ぶことは、もうやめた方がいいんじゃないかなと思っています。
やりたい仕事から入るのは自然なことです。ただ、自分の領域だけを伸ばしていれば何とかなるという状況ではなくなっています。AIが広がる中で私自身が感じている変化も含めて、収録時点での考えをお伝えします。
自分の担当領域の前後まで知っておく
私は2001年、2002年ぐらいからこの業界で仕事をしています。昔は、戦略を立てる人がいて、全体をまとめるディレクターがいて、デザインはデザイナーが担当する。場合によってはグラフィックとUIのデザイナーが分かれ、進行管理やコーディングをする人もいて、チームで何かを作る体制が一般的でした。今でも、特に中堅以上の会社さんでは、そうした仕組みを取っているところが多いと思います。
Webの黎明期は、作れるだけで結構な価値がありました。どうしていいか分からない中で、自分の一つの領域ができれば仕事になったわけです。でも今は、同じような仕事をする人がたくさんいます。定石もどんどん出てきています。その中で成果を出したり、他と比較して良いものを作ったりするには、自分の領域だけではなかなか価値を出せません。
例えばデザイナーであれば、前段階のプランニングや心理、お客さんとのファシリテーションにも意識を持っている。後ろ側で実装する人の気持ちにも立てる。そこがないと、実装に余計なコストがかかったり、商品自体の利益率を下げたりすることがあります。
理想を言えば、頭からお尻まで把握できている状態です。正直、現場の実感としては、そうでないとやっていられないかなと思います。ものづくりの前に、お客さんが普段どう営業しているのか、経営会議でどう意思決定しているのか。納品後には、それがどう使われ、どう活用すればお客さんの商品価値が高まるのか。デジタルの領域を中心にしながらも、ビジネスの前後まで見えていないと、なかなか選んでもらえない状況です。
自分を特定の職種に縛ったままスキルアップしようとすると、相当尖っていない限り厳しい。要求される水準が上がる中で、私はそう感じています。
職種名より、どんな価値を提供したいかで学ぶ
そこにAIが入ってきました。学習コストが高い、現場で使える品質に持っていくまで時間がかかる。そんな理由で周辺領域へ手を出せなかった人も、AIを自分の延長として使うことで、できることを広げています。
私も、もともとプログラムをたくさん書けるわけではありませんでした。でもAIの助けを借りると、自分の業務を効率化する細かいスクリプトやアプリ、データ整理、お客さんからの質問に答える基礎調査などは、自分でできるようになりました。誰かに聞くことが本当に大きく減ったんです。ただ、当時の私の使い方では、責任の問題があるので、お客さんに納品するプログラムを作ることまではしていませんでした。
ワイヤーフレームなども、AIでどんどん出せるようになるだろうと思っています。それが人間とAIの付き合い方としていいのかどうかは、また別の問題です。ただ、現実として、そういうことができる範囲は広がっていくでしょう。
であれば、お客さんや勤め先に対して、Webやデジタルを使って価値を提供する。その目標を立てて、必要なものを自分のスキルセットへ加えていく考え方がいいのではないでしょうか。
例えば「マーケターになりたい」といっても、マーケティングの定義は変わっていきますし、人によってやることも違います。実際には手も動かさなければいけません。ここからここまでがマーケティングの仕事だとは、なかなか決められないんですよね。
自分に名前を付けることより、何を提供できるようになりたいかを考えておけばいいと思います。「自分はデザイナーだ」と強く思うほど、それ以外の領域の優先順位が下がり、興味も持ちづらくなることがあります。でも、自分の仕事に役立つ情報は、専門領域の外にもたくさんあります。
肩書きは説明に使い、頭の中には垣根を作らない
もちろん、スペシャリストとして活躍している方はたくさんいます。ただ、私が見たり会ったりした方の中では、専門以外のことも普通にできる人がほとんどです。例えば広告が得意だという方と話してみると、ほかのこともできるし、理解しているんですよね。
話を聞いて感じるのは、「自分の主戦場はここです」とお客さんに説明するために名乗ってはいるけれど、必要なものは分け隔てなく取り入れてきたということです。その結果、プログラムもできるようになったり、マーケティングもできたり、お客さんへの説明がすごく上手になったりする。もともとの基礎能力が高くて、すごいなと思う方も多いのですが、そうした意識で仕事をすることが、結果としてお客さんへ出せる価値につながっているのだと思います。
仕事を取るには、対外的に自分がどういう存在なのかを名付ける必要があります。私も名刺にはWebコンサルタントと書いています。でも、実際にやっている仕事がコンサルティングだけかといえば、全然違います。「どこかで変えないといけないよね。でも名前がないしな」と悩むこともあります。
対外的な肩書きは必要でも、自分の頭の中ではなるべく垣根を取り払う。私はそうして、いろいろなものを受け入れるようにしています。
AIのレポートを、現場が動く提案にできるか
AIが入ってきたことで、「それっぽいもの」はさまざまな領域で作りやすくなりました。戦略レポートも、エージェントに投げれば、それらしいものが一気に出てきます。進行管理の一部も、ツールや自動化によって工数が減っていくだろうと思っています。デザインやワイヤーフレーム、Web制作でも、AIを使って形にする動きが出てきています。
では、専門知識がある人はいらなくなるかというと、私はむしろ逆だと思います。インスタントにできたものを、自分の中で消化したり、お客さんへ一時的に見せるプロトタイプとして使ったりする分にはいいでしょう。でも、その先には「なぜそうなったのか」を説明して、納得してもらい、現場を動かす段階があります。
質問を受けて、その場でAIに聞いた答えを返すやり方もあると思います。ただ、収録時点では、それだけで納得して動いてくれる会社さんは、かなり少ないだろうと感じています。
実際の現場では、一見いちばん良い答えが、全体としてうまく進む答えとは限りません。あえてここはいったん引いておき、別のところで成果を出してから、一気に進める。そうした段取りがあるじゃないですか。効率だけでは測りにくい部分ですし、戦略を立てて最後まで進めるプロジェクト全体となると、難しさは増します。
この辺りは、しばらく人間がやらざるを得ないのかなと思っています。人間の仕事として残ってほしいという願望ではなく、楽ができるなら私も楽をしたいんですけれど、現場ではやらざるを得ないだろうという感覚です。
「こういう理由で、この進め方にしています」と、相手が納得できる答えを返せるかどうかは、経験が大きいと思います。営業の経験がある人と、知識としては知っていても実態を想像できない人とでは、営業の方に対して言葉が響く度合いが違います。「自分はこう考えているけれど、現場を想像するとこれは通らないよね」と考えられる提案の方が、お客さんが実際に動き、成果につながりやすいんです。
さまざまな経験があり、引き出しが多く、その場で「ここはこうだな」とつなげられることが、これからの人間の主な役割になるのではないか。私はそう考えています。AIの数学的な仕組みについて詳しく分かっているわけではありませんし、将来を断定するつもりもありません。ただ、複数の領域をまたいで現場の判断につなげる部分は、すぐには代替されず、私たちがきちんと担わなければいけないのだろうと思っています。
広く浅くではなく、自分で体験した領域を広げる
だから、広く浅くというよりも、AIも使いながら、ある程度中ぐらいの深さで幅広くスキルを持っておく。そして、自分できちんと体験することです。
ChatGPTに「営業の何が大変なのですか」と聞けば、いろいろ教えてくれるでしょう。でも、現場の空気感までは、それだけでは難しいと思います。これからこの業界に入る方や、スキルアップしたい方に聞かれたら、私は、貢献したいプロセスをまず体験することだと答えると思います。
やっているか、やっていないかの差は大きいですよね。考えるだけでなく、現場へ行って見たり、自分でやってみたりすることで得られるものがあります。実際に体験した人が書くもの、作るものは、そうでない人のものと違う。高いか低いかというより、詳細さや解像感の違いなのだと思います。
AIでレポートを出すと、分量も多く、細かいデータが返ってきて、すごいなと思うことがあります。でも、これを持って提案に行って、ここを突っ込まれたときに、自信と説得力を持って答えられるかと考えると、答えられない内容もたくさん出てきます。そのままではなく、お客さんのところへどう落とし込むかを考え、最終的な提案書や戦略の立案書にして持っていかなければ、厳しいと感じています。
資料を作れたことと、お客さんの現場を動かせることの間には、体験や経験が必要です。体験したことをWebの施策へどう落とし込むかという方法の部分は、AIが補ってくれる範囲も広がるのではないかと思っています。
機会がなければ、自分の営業や社内の仕事で体験する
お客さんに対してそうしたことをする機会がないのであれば、極論、自分自身のセールスやマーケティングで体験していった方がいいと思います。フリーランスとしてこの業界でやっていきたいなら、自分を売り込む。その際、できるだけお客さんと同じようなやり方で学んでいくのが、得られるものが大きいのではないでしょうか。
それはやりたくないという方もいるでしょうし、デジタル業界には営業をあまり得意としない方もいます。でも、私はやった方がいいと思います。
企業の中の方であれば、自分たちの売り物の頭からお尻まで、一通り体験させてもらうのが先ではないでしょうか。ほかの部署の人と知り合って、プロジェクトがうまく進むこともあります。「現場を知ると、逆に動けなくなる」という人もいますが、それは相手の気持ちが分かったということなので、いいことだと思うんです。そのうえで、どう乗り越えるかを考えられます。
体験や経験をもとに、自分のスキルを形作っていく。方法については、AIに聞けばいろいろ教えてくれます。私も、軽く調べたつもりが話題がどんどん展開して、「じゃあこれは、これは」とやり取りするうちに、時間が溶けるようになくなることがあります。でも、ものすごく満足感があるんですよね。そういうパートナーとして、うまく使っていきたいと思っています。
最初から役割で自分を縛るのではなく、貢献したいことを考えて、必要なものを取り入れていく。その中でも、できるだけ自分で経験することが、これからのスキルを作る鍵になると考えています。
こうした話は、企業さんのナレッジのため方や、担当者の方々への研修でもお伝えしています。伴走支援の中でも、ノウハウはどんどん持ち帰ってもらっています。私たちは、出し惜しみをせず、いずれ卒業してもらうためのコンサルティングをしていますので、そんな形で自社の力をつけたい企業さんと、一緒にWebの取り組みを進めていけたらうれしいです。
関連コンテンツ
現場を知りながらWebを使い、試して学ぶ機会を重ねることが、自分たちの仕事を広げる土台になります。
社内と外部の役割を分けて考える全体像は、Webマーケティングの実行体制もご覧ください。
配信スタンド
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こちらのフォームへどうぞ。
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運営・進行
株式会社ラウンドナップ(ラウンドナップWebコンサルティング)
代表取締役・コンサルタント 中山陽平
Webサイト:https://roundup-inc.co.jp/
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